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朝のクモ

蜘蛛(クモ)はフランス語でaraignéeアレニェと言います。

araignéeに関することわざで次のようなものがあります。
Araignée du matin, chagrin, araignée du soir, espoir.

訳すと、『朝のクモは悲しみ、夜のクモは希望』

なんと、日本語にも蜘蛛に関する似たような概念があるではないですか!朝蜘蛛、夜蜘蛛といって、朝に蜘蛛を見ると縁起が良く、夜に蜘蛛を見ると縁起が悪いと。でも、なぜかその良し悪しが逆になっている…。調べてみると日本では地域によって様々な見解があるようです。九州のある地域では蜘蛛を『コブ』と呼び、夜コブと言うと『よろこぶ』をイメージさせるので縁起がいいとか(九州にお住みの方ご存知でしょうか)。私のうちでは、家の中にいる蜘蛛は殺さないようにと言われてきました。

さてフランス語のことわざに戻りましょう。

昔からクモの気象学的特徴というのはよく知られており、このことわざも17世紀に生まれたものと考えられています。

早朝に見るクモというのは、朝露が降りていないことを意味し、つまり後で雨がやってくる可能性を指します。そして、クモというのは普通夜にクモの巣を張るのですが、もし正午にクモがクモの巣を張っているのを見かけた場合は、嵐が予想されます。嵐が来る前に急いで巣を作らないといけないので。そしてさらにクモを夜に見かけたら、穏やかで良い天気が続くという。

農耕民族にとっては、雨はありがたいものなので、やはり朝見る蜘蛛は縁起がいいのでしょうか。きっと。

次はaraignéeの形容詞にあたる単語arachnéenアラクネアンについて。この単語は古代ギリシャ語のἀράχνη(ς) arachnē(s)に由来します。意味はそのまま『蜘蛛/蜘蛛網』。英語でも蜘蛛嫌いをarachnophobiaと言いますよね。

さてこのギリシャ語由来のクモにはおもしろいギリシャ神話があります。

昔アラクネと呼ばれる機織りがおり、その技術は機織りを司る女神アテナよりも優れているとの評判でした。アラクネ自身もそれに自信をもっており、なぜアテナは勝負しにやってこないのかと豪語します。するとアテナは老婆の姿を借りてアラクネの前に現れ、神々の怒りを買うことのないようにと忠告します。しかしアラクネはそれ聞き入れない。怒りの爆発したアテナは正体を現しアラクネと機織り勝負をすることに。

結果、アラクネは非の打ち所のない優れたタペストリーを織り上げます。アテナでさえその技術を認めざるを得ないような素晴らしい出来。しかしその出来栄えに激怒したアテナはタペストリーを破壊しアラクネの頭を打ち据えます。これによりアラクネは自分の愚行を認め、死を遂げたのです。

そしてアテナはその後アラクネを一生糸を紡ぐことになる蜘蛛へと変えてしまいました。

こちらがその神話を表した絵画です。右で糸を紡いでいるのがアラクネ。左の後ろを振り返っているのが老婆の姿を借りたアテナです。

ディエゴ・ベラスケス 『織り女たち』

後ろに繰り広げられているステージにも注目!兜をかぶっている女性は知恵と戦争の神、そうアテナ。そして彼女の前に座っているのがアラクネですね。いろんな秘密が隠された絵です。