誰か機嫌の悪そうな人がいると、きっとフランス人は“寝起きが悪かったんだろう”と言うかもしれません。
それをフランス語にすると、
Il s’est levé du pied gauche. “彼は左足から起きた”
ベッドから起き上がって、最初に床に着いたのが左足だと・・・縁起が悪い。
なにかと“左”というのは忌み嫌われるようですが、そこには起源があるようです。
ラテン語の形容詞である<<sinister>>という言葉から、“左”を表す古フランス語<<senestre>>と“不吉な、縁起の悪い”もしくは“災害”という意味を持つ<<sinistre>>がうまれます。
英語でもsinisterといえば同じく “不吉な”や“災害”という意味を持っていますよね。
そしてラテン語にもっと近いイタリア語では、元の意味が生き続けており、左のことを<<la sinistra>>と表現するそうです!
つまり
ラテン語 sinister 左側に位置する/不吉な
イタリア語 sinistro(a) 左/不吉な
古フランス語 senestre 左 (現在はgauche) — 現代フランス語 sinistre 不吉な
中期英語 sinistre 不吉な — 現代英語 sinister 不吉な
元々はラテン語では左側に位置するという意味を持っていたようです。
こんな表現を見つけました。
My mother’s blood runs on the dexter cheek, and this sinister bounds in my father’s. By Shakespeare
(母の血は右の頬の走り、この左側は父親の血である)
そうです“左”sinisterの対になるのがdexer“右”なのです。
フランス語では、
dextrérité 器用さ/巧妙さ
dextre (貝殻の模様)右巻きの/(古フランス語)右/右側
もし両手が器用に使えると、
ambidextre 両手効きの
というふうに表現できます。
英語も全く同じです。
dexter 右側の
dexterous (手先の)器用な、上手な / 機敏な、抜け目のない
ambidextrous 両手効きの
では、なぜsinister(左)がネガティブで、 dexter(右)がポジティブなイメージなのでしょうか?
古代ギリシア語で“左”を意味するskaiosとそのラテン語の同義語scaevusというのはインド・ヨーロッパ祖語 shadow(現在使用されているshadow/シャドー/陰)を表す言葉から来ており、また他のインド・ヨーロッパ言語(ケルト語、ギリシャ語など)では“右側”というと“南向き”を表すそうです。
つまり左は陰で、右が日の射す方向。
古代インド・ヨーロッパ語族やセム語族は毎朝太陽の昇る東の空を眺めていたという証拠もたくさん残っているそうです。
北半球においては、東側を向くと太陽は常に右手側にあり、陰は左側に作られます。つまり左と陰という関係が出来上がるのです。
(以上 English Language and Usageより)
太陽が昇る右側は縁起がよく、陰になる左は縁起が悪いということですね。
またorient(オリエント)というと東洋、アジアという意味の他に、動詞で<東向きにする>、<教会を東向きに建てる>という意味も有名ですね。こちらもラテン語で“登りつつある(太陽)”という由来があるのです。
当時はホロスコープつまり星占術というものが社会の中心にあり、星の動きによってすべてが予言され支配されていました。きっと多くのギリシャ人たちローマ人が空を眺めていたことでしょう。太陽の昇る方角、東という方角がいかに大切だったことか。
(イメージ the Astrology Foundation Incより)
ことばが変わり、left/right 、gauche/droiteとなった現代においても遠いギリシア・ラテンの頃の意味が受け継がれ残っているのですね。
言語の中にはたくさん歴史が詰まっていておもしろいです。益々イタリア語の勉強が楽しくなります!!!(フランス語もしなければいけないのですが・・・)。追求するとどんどん長くなるのでこの辺で終わっておきます・・・。