Category Archives: フランス語レッスン

人魚の歌声は

ディズニーでもおなじみのマーメイド(人魚)。可愛いいキャラクターで女の子に人気ですが、その起源を辿るとそれは恐ろしい・・・。

ということで、今回は人魚について豆知識のページです。

まず英語ではマーメイドmermaidといいますが、このmerはラテン語のmare=『海』から来ています。フランス語でもmerで『海』ですよね。maidは『乙女』。つまり『海の乙女』です。英語で表現されると本当にディズニーの世界ですね。比較的新しい人魚のイメージです。

しかしギリシャ神話へと時間を戻していくと話は全く違ってきます。人魚はギリシャ語ではセイレーン(Σειρήν, Seirēnフランス語はそこから派生してスィレーヌ(Sirène)と言います。

人魚といってもセイレーンは古代ギリシャ神話においては海の怪物です。上半身が人間の女性で、下半身は、なんと”魚”ではなく”鳥”です。もとは”鳥女”だったんですね! そして海を航行中の人々をその美しい歌声で惑わし、遭難や難破に導くという。

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作 『オデュッセウスとセイレーン』1891年


(イメージ:ウィキペディアより)

この絵の中にいるセイレーンは『海の乙女』とはほど遠い外見ですよね。口を開けているのは”美しい声”で歌っているところなのでしょう。ガーガーとしか想像できませんが…。

ではなぜ”鳥女”が”人魚”になったのか? よくわかりませんが、海に関係するのと人魚にしたほうが絵になるからでしょうか? 画家たちによって徐々に美化されていったんでしょうね。

フランス語の辞書にも次のように載っていました。

Il écoute le chant des sirènes. セイレーンの歌に聞きほれる→誘惑に負ける

やはり誘惑に負けてしまうくらいの美しさなので、外見も美しくないとイメージが伝わりません。実際にその歌声を聞くことができない我々にとっては、目から入るイメージが重要です。そしてそこが絵画の発揮するパワー。

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作 『マーメイド』1900年


(イメージ:ウィキペディアより)

この絵の中の人魚なら美しい声が伝わってきます! 同じ画家による作品ですが、イメージによって聞こえてくる”声”も変わってきますよね。タイトルもマーメイドに変わっていました。

さてもう一つの豆知識です。

ギリシャ語のセイレーンは、英語の中にもその名残を残しています。さてどんな言葉でしょう。日本人も普段よく使っている言葉です。

正解はサイレン(siren)

鳥の歌声→シレーヌ(神話)→サイレン(音を発するもの)

パトカーや救急車のサイレンはなんとギリシャ神話から来ていたんですね。

朝のクモ

蜘蛛(クモ)はフランス語でaraignéeアレニェと言います。

araignéeに関することわざで次のようなものがあります。
Araignée du matin, chagrin, araignée du soir, espoir.

訳すと、『朝のクモは悲しみ、夜のクモは希望』

なんと、日本語にも蜘蛛に関する似たような概念があるではないですか!朝蜘蛛、夜蜘蛛といって、朝に蜘蛛を見ると縁起が良く、夜に蜘蛛を見ると縁起が悪いと。でも、なぜかその良し悪しが逆になっている…。調べてみると日本では地域によって様々な見解があるようです。九州のある地域では蜘蛛を『コブ』と呼び、夜コブと言うと『よろこぶ』をイメージさせるので縁起がいいとか(九州にお住みの方ご存知でしょうか)。私のうちでは、家の中にいる蜘蛛は殺さないようにと言われてきました。

さてフランス語のことわざに戻りましょう。

昔からクモの気象学的特徴というのはよく知られており、このことわざも17世紀に生まれたものと考えられています。

早朝に見るクモというのは、朝露が降りていないことを意味し、つまり後で雨がやってくる可能性を指します。そして、クモというのは普通夜にクモの巣を張るのですが、もし正午にクモがクモの巣を張っているのを見かけた場合は、嵐が予想されます。嵐が来る前に急いで巣を作らないといけないので。そしてさらにクモを夜に見かけたら、穏やかで良い天気が続くという。

農耕民族にとっては、雨はありがたいものなので、やはり朝見る蜘蛛は縁起がいいのでしょうか。きっと。

次はaraignéeの形容詞にあたる単語arachnéenアラクネアンについて。この単語は古代ギリシャ語のἀράχνη(ς) arachnē(s)に由来します。意味はそのまま『蜘蛛/蜘蛛網』。英語でも蜘蛛嫌いをarachnophobiaと言いますよね。

さてこのギリシャ語由来のクモにはおもしろいギリシャ神話があります。

昔アラクネと呼ばれる機織りがおり、その技術は機織りを司る女神アテナよりも優れているとの評判でした。アラクネ自身もそれに自信をもっており、なぜアテナは勝負しにやってこないのかと豪語します。するとアテナは老婆の姿を借りてアラクネの前に現れ、神々の怒りを買うことのないようにと忠告します。しかしアラクネはそれ聞き入れない。怒りの爆発したアテナは正体を現しアラクネと機織り勝負をすることに。

結果、アラクネは非の打ち所のない優れたタペストリーを織り上げます。アテナでさえその技術を認めざるを得ないような素晴らしい出来。しかしその出来栄えに激怒したアテナはタペストリーを破壊しアラクネの頭を打ち据えます。これによりアラクネは自分の愚行を認め、死を遂げたのです。

そしてアテナはその後アラクネを一生糸を紡ぐことになる蜘蛛へと変えてしまいました。

こちらがその神話を表した絵画です。右で糸を紡いでいるのがアラクネ。左の後ろを振り返っているのが老婆の姿を借りたアテナです。

ディエゴ・ベラスケス 『織り女たち』

後ろに繰り広げられているステージにも注目!兜をかぶっている女性は知恵と戦争の神、そうアテナ。そして彼女の前に座っているのがアラクネですね。いろんな秘密が隠された絵です。

クエスチョンマーク???

普段何気なく使っているこのマーク ”” 、そう、クエスチョンマーク。この由来についてみなさん考えたことがあるでしょうか。(※日本語にはクエスチョンマークはつきませんね。)

先日、いつものようにフリーペーパーを電車の中で読んでいたところ(ただで読めるのでフランス語の勉強にもってこいです)、このクエスチョンマークについての記事を発見。小さな記事に大感激してしまいました。

その起源は中世にまで遡るようです。

ずばり、?マークというのはquestionを表すラテン語<<quaestio>>の僧侶写本者による省略の形なのだそうです。中世では紙は貴重で高価なものだったため、9世紀頃、僧侶たちが文字を省略することによって紙の節約をしようとしたのです。<<quaestio>>の両端にある<<Q>> と<<O>>を使ってこの言葉を簡略化したのですね。そしてさらに紙面のスペースを節約するため、<<Q>>を<<O>>の上にのせるという方法が多くの修道院で発達していきます。何世紀も何世紀もかけてこの書体が崩れていき、<<Q>>は少し広げられ、また<<O>>は点に取って代わっていきます。どんどん書きやすくなっていきますね。現在我々が使っている?マークはこうして生まれ、全世界へと広まっていったというわけです。

因みにクエスチョンマークを日本人は”はてな”マークとも言いますね。”はてな”の「はて」は疑問/懐疑を表す感嘆詞で、そこに間投助詞「な」がついた感嘆詞だそうです。

フランス語ではクエスチョンマークは un point d’interrogationと言います。疑問符という意味の他に、そのままの意味、疑問点という意味でも使うことができるので、例えば、

C’est un point d’interrogation.

と言うと、「それが疑問点だ」とか「そこが分からない点だ」というふうに使えます。

クエスチョンマークにも”歴史あり”ですね。

丁寧なvousの起源

フランス語を勉強するにあたってVous(ヴ)ということばの使い方がとても興味深い。

Vousとはフランス語の人称代名詞でTu(チュ)の複数形にあたります。

Tu es étudiant. (チュ エ エチュディアン) は学生だ。

Vous êtes étudiants. (ヴゼットゥ エチュディアン) 君たちは学生だ。

ただフランス語の場合、このvousが丁寧語としても用いられるので慣れるまでちょっと面倒かもしれません。

Tu es gentil.   君/お前/あんた 親切だね。(←こんな感じかな?)

Vous êtes gentil. あなたは 親切な方ですね。

ほとんどの場合、vousはこういう使い方をするんだということで覚えて終わりなのですが、なぜそうなったのかと疑問に思われたことはないでしょうか。

その起源を見つけました!たまたま読んだ記事にその説明が載っていたのですが。

丁寧語Vousの起源

丁寧語として使われるようになったVousの歴史は古代ローマ帝国時代(4−5世紀)に遡ります。その頃、ローマでは二人の兄弟がローマ帝国を支配していました。一人はFlavius Honorius、もう一人はFlavius Arcadiusという皇帝です。彼らは常に離れることなく供にローマを治めていました。そこで一人の皇帝に話しかけたい時には、複数形の”vous”を使ってもう一方の皇帝に象徴的に話しかけるようにすることが習慣となっていました。そうすることによって二人の皇帝の機嫌を損ねることを避けたのです。そしてこの敬意の表し方が特に軍や政治の階級制度などに残り、全国民へと広がったということです。

Honorius (左)Arcadius (右)

調べたところによると、この二人の皇帝は、395年に彼らの父であるテオドシウス1世が死去した後、遺言で兄Arcadius (アルカディウス)が帝国領の東半分(東ローマ帝国)を、Honorius (ホノリウス)が西半分の(西ローマ帝国)をそれぞれ分割統治することになったということです。しかし結果としてこれがローマ帝国の東西分裂へと繋がっていきます。二人ともあまり政治に関心がなく暗君とされているようです(ウィキペディアより)。

そんな二人から誕生したこのVousという不思議なことばの使い方。ちょっと意外な面で偉業を残したことになる皇帝ということですね。

犬好きな

外国語を勉強していると“え、こんな言葉が存在するの?”というような驚きによく遭遇します。最近感心した単語が犬好きを表すcynophile

英語で親日家というとJaponophileということばがすぐ浮かんできますね。

bibliophileは愛書家というように、このphileという部分に好きという意味が含まれています(ギリシャ語から由来)。
ちなみに嫌いというのはphobeで表します。

xenophobia 外国人嫌い/対人恐怖症

さて本題のcynophileですが、phileが好きを表しているということで、それではcynoの部分が犬ということになりますね。
そうこのcynoの部分がとても興味深いのです。シニカルなという言葉をよく耳にしますが、このシニカルのシニは犬から来ている!ということを発見。
英語ではcynical、フランス語ではcyniqueと表記します。

とりあえずフランス語のページなのでフランス語の辞書を調べてみたところ、cyniqueとは反世間的な良識に逆らうという意味と、哲学では犬儒〔キニク〕学派のという意味も持つそうです。そしてこの犬儒学派(キュニコス派)はどんなものかというと、禁欲を重視し、無為自然を理想とすることだそうです。

現実社会に対しては諦めた態度を取っており、古典期の社会(ポリス)参加を重視する理論思想とは大きく異なった思想である(Wikipediaより)。

この思想を実践したのがDiogenesという古代ギリシャの哲学者。彼は思想体現のため犬のような生活を送り「犬のディオゲネス」と呼ばれたそうです。

犬はフランス語でchienですが、英語と同様ネガティブな意味も多いですよね。

vie de chien 惨めな生活
travail de chien つらい仕事

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ちなみに英語でcynicを調べてみると、皮肉屋とか冷笑家もしくはすね者とあります。人間の行動を全て利己的だとし、全てに不信だとか軽蔑を抱いている人を指すそうです。

He is a cynic. He is tuning his back on the world and snarling at everyone…Sometimes I feel like it…Actually many people feel like it in the modern world, I guess.